★ ★ (2) ★ ★

目を覚ますと、世界は仄かな光に包まれていた。
カーテンの向こうが、ほんのりと明るい。
(寝ちゃったんだ...)
恐らく、メイコが運んでくれたんだろうと思う。
見慣れた自分の部屋の、ベッドの中だった。
...と、隣に眠っていたリンが、むくりと起き上がり、
「おしっこ...」
ポツリとつぶやくと、ペタペタと音をたててドアの向こうに消えていった。
(...って、あれ誰だっけ?)
一瞬、混乱しかけたミクだったが、そう言えば、カイト兄ぃに誰か紹介されたような記憶がある。
「確か、リンって...」
程なく戻ってきたリンが、ミクの正面に仁王立ちする。
「お腹すいた...」
ほぼ同時に、ミクとリンのお腹の辺りから、ぐぅと太平楽な音色が響いてきた。
「...て言っても、まだなんか残っているかなぁ...」
暗がりの中、居間に向かった二人だったが、予想通り、テーブルいっぱいに並べられていた料理は跡形も無く片付けられてしまっていた。
(カイト兄ぃのことだもの、きっとケーキは残してくれてると思うけど...)
冷蔵庫を開けてみると、予測通り、手付かずのケーキが二つ、行儀良く並んでいた。
...じゅるっ。ごくっ。
その音の主は、ミクの足元でしゃがみこんでいるリンだった。
天真爛漫という言葉を体現しているようなリンだったけれども、兄たちの、みんなでケーキを食べようと思った気持ちは理解したらしい。
(...て言っても、お腹すきすぎて、このままじゃ眠れそうにないし...)
ふたたびテーブルの方をみやったミクの瞳が、その向こうの流し台の上にあるものを捉えて止まった。
すぐに駆け寄ると、おにぎりがてんこもりの皿がラップに包まれていた。
その傍らに置いてあった1枚の紙切れを、ミクは拾い上げる。
『お仕事お疲れさま。
 明日早いので、おにぎりは朝食も兼ねていますので、念のため。
 ポットに水を汲んでおいたので、後は適当に。
 使い終わったら、ちゃんと片付けること。

P.S.
どんなに疲れていても、寝る前には必ず歯を磨きなさい。
アイドルは、歯が命なんだからね。

MEIKO姉より』
(メイコ姉ぇ...)
ちょっと、しんみり気分になったミクをよそに、リンは無造作にラップをはがすと、おにぎりを両手に掴んでほおばった。
「むしゃむしゃ、もぐもぐ...」
「お姉ちゃんたち、明日早いみたいだから、わたしの部屋に戻って、いただきましょ。」
「うん、わかった。」
おにぎりの片割れを口にくわえつつ、開いている方の手で、軽々とお皿を持ち上げるリンを先にして、ミクはポットをかかえて自分の部屋に向かった。