★ ★ (4) ★ ★

部屋に戻ってみると、すでにお湯は沸いていた。
さっそくカップに湯を注ぐと、甘いカカオの香りが鼻腔を満たした。
一口飲み込んだ後の、甘い残り味に、ホッと息をついたミクは、両手でカップを包み込んだまま、じっとココアの湯気が昇り立つのを見つめているリンに気が付いた。
「どしたの?」
「ふにゃお。」
「あ、ネコじた...」
こればかりはミクにもどうすることもできないので、おにぎりを一つ手にとって口に運んでみる。
「うま...」
言葉の残りは、ご飯と一緒に、ミクの口に飲み込まれていった。
しばし、ミクの咀嚼音だけが部屋の中に響いていた。
「...ふぅ。」
おにぎり2個を一気にたいらげたミクは、3個めを手に取ってから、少しの間ためらった。
(ダイエット...体力勝負...お腹ぷよぷよ...つるぺたつるぺた...うううぅぅぅ...がぶっ!)
3個目でさえ悩みに悩んだミクの傍らで、リンはすでに5個目を口いっぱいにほおばっていた。
(...って、明日の分は?)
リンの食いしん坊を予期してなのか、あるいはメイコの大雑把な性格を反映してか、おにぎりの山はそれほど小さくはなっていなかった。
(メイコ姉ぇってば、いったい何人分のつもりでお米炊いたんだろう?)
...と、ようやくココアに口を付けられるようになったリンが、準一気飲みにカップをあおると、ひどく盛大なゲップをしてみせた。
そういえば前に、メイコ姉が言ってたっけ。
今までは、ラボである程度の知識を得てから世間に出ていたボーカロイドだったが、最近は方針を変え、工房から出てまっさらに近い状態で人と接するようにし、よりニンゲンに近い成長の仕方をさせようとしているのだとか。
ミクの場合、新世代ボーカロイドとして万全の体制をとったことで、過保護に扱われすぎたのではないかという意見があったため、その反動で、リンとレンは敢えて精神的に未完成な状態で旧世代のメイコたちに託されたのかなと思う。
ちょっと無責任じゃないかなと思う一方で、自分たちって、存外信用されているのかもしれない...
とはいえ...
(たとえ失敗しても、結果的にネタになればいいやとか思っていたり...まさかね。)
あの人たちなら、そう考えかねないなと思ったりするミクであった。